リサ・ロイヤル氏のコンタクト・リトリートを1週間後に控えた6月の末、ソロでのコンタクトワークに向かう前の晩のこと。ネット検索による調べものをしていて画面に映されたのは、尖った長耳で黒犬顔のアヌビス神が、古代エジプト壁画の中で何かしている場面だった。好奇心に駆られた私は、迂闊にもこの神についてさらに調べを進めてしまう。この何気ないネットでの知的探求を、私は後悔することになる。
この神についてすでに知っているのは、リサの著書『プリズム・オブ・リラ』で集合意識体ジャーメインが語っていたことだ。アヌビスのアーキタイプ(原型)はシリウスであり、またアヌビスという言葉にはシュメール語やエジプト語で「天の──」と言う意味があると。また「ジャッカル(イヌ科イヌ属)」の姿をしているこの神は、すなわち「天の犬」であり、シリウスが Dog Star とも呼ばれる暗示がそこにあるのだとか。
しかし私はまだ知らなかった。死者を冥界へと案内し魂の計量を行うこのワンコが、なぜ黒いのかを。
ずっと以前の私はまだまだ疑り深く、思い出しかけた過去世の記憶があれば、それに関連するだろう歴史や文化の情報を極力遠ざけていた。情報を仕入れてしまうと、そのさき思い出すことが本当に過去世の記憶からなのか、信じられなくなると考えたからだ。だがエジプトだけは違う。忌避感。ただそれだけで遠ざけていた。その人生の内容が酷いからとかではなく、記憶に触れること自体が著しく負担だったのだ。
思い出すのはエソテリックな儀式に関わる場面で、たいていは高揚感と辛さが混在している。そんな場面を見ているからなのか、それとも過去世の体感覚に共鳴しているだけなのかは分らないが、今の自分の体が電気的なエネルギーで焼き切れそうになり、苦痛と恐怖に襲われることになる。だから私は古代エジプトの記憶や情報に近づけないし近寄らないことにしたのだった。実際、今これを書いているだけで胸が苦しくて気分が悪い。
しかし長らく遠ざけていたが故の油断と、ネット検索の手軽さのせいだろう。湧き上がる不快感に気付き「しまった」と思ったのは、情報にたっぷり触れた後だった。
この神の顔がジャッカルである理由。それは、夜な夜な墓地を徘徊し朝靄の中に消えるこの獣の習性が、まるで墓守のようだと人々に思われたことに始まる。やがてこのジャッカルこそが、死者の魂を冥界へ案内する神の使いだとされる。
しかしジャッカルは黒くない。アフリカ南部の背黒種でさえ褐色ベースだし、エジプト含め生息域大半を占めるのは、やはり褐色のキンイロジャッカルである。
調べた文献によればアヌビスの黒はタールの黒色らしい。エジプトのミイラ作りでは防腐処理として全身にタールを塗っており、そのことに由来しているという。死体にタールを塗るなんて初めて知った。そしてこれが過去世の、とある記憶と符号することに気が付いた。
ともかく、アヌビスとは冥界への道案内や魂の計量のみならず、復活に備えたミイラ化手術も司っていたらしい。外科医に優秀ガイドと裁判官までを多才にこなすとは、まさしく神。ワンコだけど。
*
忌避感ばかりが先に立つエジプトの記憶だが、比較的穏やかなものもある。この記憶は20年ほど前、前世療法を学ぶ為のセルフトレーニングで変性意識に入り、思い出したエピソードのひとつだ。なお以下の場面の前後は省略している。
その人生での私は葬儀を執り行う責任ある立場にあった。位の高い人の大きな葬儀を間近に控え「失敗はできない」という緊迫感が伝わってくる。
とある石造りの部屋にいた。部屋の奥は床が一段高くなっており、そこに奇妙な置物が数個据えてある。上部がそれぞれ違う動物の顔で意匠が施されており、その下はどれも同じ円筒形の造りだった。その時代の私の目を通しながらも、意識は観察者として今の自分を保っている私は、「なんだこれ? へんなものだな」と訝った。高位者のための大切な部屋であり、厳粛な葬儀が控えているのに、子供の玩具じみたそれらの置物がひどく場違いに思えたのだ。
そして視界の片隅に映る黒い何かが、さっきから気になって仕方がない。見れば長さ2〜3メートルの石の台の上にころがっていたのは、黒い枯れ木か炭だった。「なんでこんなものを部屋の中に?」と観察者の私は今度こそ呆れてしまう。
しかし直後、これは葬儀で送られるその人だとの理解がやってくる。よく見れば確かに人型だとわかり私はギョッとした。当然「裸で真っ黒って! どうして……」と訝ることになる。きっと死因は尋常なものではないだろう、と過去世の自分が担当する一件に穏やかならざるものを勝手に想像しながら、私はその人生を眺める過去世体験から離れた。
この体験からずっと後に私は知る事となる。エジプトの遺跡からはああゆう動物顔の遺物が出ているのだと。さらに後年、それは「カノプス壺」と呼ばれる死者の内蔵を収めた壺で、ミイラ作りと後の儀式に欠かせない物であることを知った。
そして今日、文献を読んで理解した。あの部屋の遺体の黒さは、不穏な死因によるものではなかったと。真っ黒なのは防腐処理のタールによるものらしい。処置の手順によれば、あれはおそらく出来たてのミイラのはずで、最後に包帯が巻かれる前の安置だったと思われる。だから動物顔の壷もすでに中味が入っていたことだろう。開けなくてよかった。
自分の過去世記憶の一部も検証でき、知識も増えてめでたしめでたし──ならよかったのだが……。記憶をなぞったことで浮上してきた感情により、冒頭で述べたとおり私は後悔することになった。これは本当に迂闊だった。胸骨の裏側辺りが今もまた痛くて仕方がない。高揚感と嫌悪感と恐怖が混ざりあった独特の感覚に、久しぶりに直面している。やはり根が深そうだ。そして多分、これは偶然ではないのだろう。
自分の中の「古代エジプト」と更にその向こう側に、何らかの宇宙的な繋がりがあると感じている。それをしっかりと癒し統合したい。今回改めてそう思うのだった。
***
2018年6月30日。ネットでアヌビスを追いかけたが為に、蓋をしていた記憶と感情に触れ胸の痛みに顔を顰めたその翌日の夜。私はコンタクトワークに臨んでいた。
夏の夜空の赤星と言えば、南天を這って行く蠍座の心臓アンタレスだろう。しかし今年はそんなアンタレスをつい見失う。15年ぶりに地球へ大接近した火星が、目に染みるほどの赤い輝きで、蠍の後を追いかけているからだ。
昨日の異例に早い梅雨明けで素晴らしい星空だ。けれど宵過ぎに明るい月が昇る。夏の月は低く射し込み瞼を閉じても目をくすぐる。この光さえなければ、暖かく静かで最高の条件なのに。
それにしても火星がこれほど目立っていると少し不思議な気分になる。昨夜はシリウスのアヌビスでエジプトに触れ、火星もまたエジプトやシリウスとの深い繫がりがあるのだから。面白い偶然だ。
月は昇ったがまだ眩しさを覚える前だった。ふとエネルギーが変わる。宇宙人が高いバイブレーションを纏って接近した時とは違い、穏やかな、でも明確な変化がそこにあった。
「もう受け入れたら?」
と語りかけられる。誰だか知らないが私の事情はお見通しらしい。
内的スペースでのコンタクト? チャネリング? どっちでもいいか。
「なんのことかな?」
と問い返す。
「言うまでもないと思うけど?」
言わないつもりらしい。まぁ、そうだね、わかってるけど。
私はそれに答えず、向こうも何も言わなかった。
「…………」
不意に大きな大きな一つの目がパッと現れた。
何とも気味が悪い瞳だ。それはいいのだけれど、じいぃ……っと、じぃぃぃ……っと見つめられるとたまらない。はぁ……。
「わかった、受け入れる」
私は迷って避けていた2つのことを、受け入れると決める。ひとつは私のコンタクト体験をオープンにしてゆくこと。もうひとつは前々からの課題であった、エジプトでの過去世の記憶、本質的にはそのエネルギーと向き合うことに関してだ。色んな理由をつけて随分と後回しにしてきた。来週はリサ・ロイヤル氏のコンタクト・リトリートもある。もう避けてばかりはいられないだろう。
私の反応に納得したのか目はパッと消えた。それでも向こうはまだ何やらブツブツ言っていたけれど、もう憶えていない。私はそのあとどうやら眠ってしまったらしい。誰だか知らないけど申し訳ない。
どれほど経ってからだろう、ふと何かを感じて意識が覚醒しかける。ただこの感覚は宇宙人が接近したときとは違い、普通に起こされた感じだった。
ん? 左足に何かが触れている。焦点が定まらない目には褐色の塊が私の膝によじ登る様子が映っていた。ただこの塊が何であれ怖くはないな。雄鹿に背後でいきなり威嚇されるよりは数百倍はましだから。あれは心臓に悪いなんてものじゃない。
意識が少しずつ覚醒して、だんだんと見えてきた。大きな耳だからキツネか? 確かに森では何やら唸ってたいたよな。あ、でもしっぽが違うし鼻も出てないし。キツネもここまで耳長くないよなって、うそ! この耳、顔と同じくらいの長さだよ! まるで羽だ……。
この辺りで膝の上の存在が普通じゃないことに気づき始める。
なんだああ! この生き物は!
幻想的で美しくて、もう目が離せない。私をじっと見つめてくるその瞳は、やはりネコのものだろうか。尋常ではない長耳だけれども喉をゴロゴロ鳴らしている。
少しして私はなぜか声を出そうとしていた。まだ体のスイッチは入っていなかったらしく、他は何一つ動かせなかったのだ。けれどその僅かな気配を察してか、この美しい生き物はするりと膝を降りどこかに消えてしまった。私は目で追うことも出来ず、再び瞼が落ちてしまう。その後の記憶はない。まるで夢のような出来事だった。
私がいたのは街から離れた山中で、眼前は開けた原野だが背後は深い森である。そして月が明るすぎるため木陰を求めて少しだけ森に入っていた。そのまま森を、それも鬱蒼とした原生林の斜面を1キロほど下れば、確か別荘がチラホラあったはず。郊外のネコは行動範囲が広めと言われるから、多分そこから来たとしか思えない。
その真相はなんでもいいと思っている。ただ私はこの地で長年、数多くコンタクトワークをしてきたが、こうゆうことは初めてだった。そしてこのタイミングで、おそらくはこの品種と出会ったことに驚かずにはいられない。
長い尖り耳、褐色の短い毛並み、細くて長い尻尾。夜の森で私の膝に乗ってきたネコの特徴は アビシニアン(wiki 画像)そのものだ。ペットとしては珍しいのだろうか。私には分からないが、ただこの種は古代エジプトに由来すると言われるネコだった。あの長耳はまるで前日に画像で見たジャッカルそのもの。あれが飼いネコの散歩による来訪だったとしても、このシンクロにはたぶん意味がある、そんな気がした。
この1週間後のコンタクト・リトリートで、思いもよらぬ情報がリリースされた。それはこれまで隠されていた、シリウスエネルギーのネガティブな一面に関するものだった。ようやく伝えられる時が来たと、少し緊迫した雰囲気で彼ら(リサがチャネルする宇宙人)は話してくれた。それらは人類のエソテリックな教えの中に入り込んでいると言う。
その筆頭として挙げられたのが──古代エジプトだった。
(2021-02-22 部分改稿)